第九部・旗の内側でだけ泳げる
第43章ライフガードは旗の外に出ない
救生员不出旗
中国語の原文からの翻訳です。

零時。船はまだ海の上にいて、上へ昇っていた。
船室には彼一人しかいなかった。座席は灰色で、シートベルトは胸元まで締めてあった。計器盤の文字は白く、一行ずつ上へ跳ねていった。アンドリューは舷窓を見なかった。高度計を見ていた。数字は海面から上へ進んでいった。三百、千、三千。一目盛りずつ、同じ速さで跳ねた。計器盤の右下に、小さな文字が一行跳ね出た。その意味は分かった。名簿に載っていない。その一行を誰が書いたのか、彼は考えなかった。
エンジンが押していた。推力の音は背後にのしかかっていた。低く、安定して、一度も途切れなかった。彼は両手を膝の上に置いた。掌は下向きだった。彼は待っていた。
ニューヨークでも、それは画面の外に止まっていた。リバティ島の外の水面の上空に浮かび、一度も降りてこなかった。あのとき彼は地上にいた。今度は、中にいた。それは彼の名義の船で、ニューヨークが解けたあと、彼のものになった。
高度計は九千百十二まで進み、止まった。
遅くなったのではない。止まったのだ。エンジンはまだ押していて、推力計の針は一目盛りも動かなかった。数字はそこに立っていた。次の一秒も同じ数で、その次の一秒も、同じだった。
通信機の中で、ある声が口を開いた。平らで、息継ぎがなく、一字一字の長さがすべて同じだった。それは番号を一続き読み上げた。
「LM-1-05。通過を許可しない。」
アンドリューは一言返した。「了解。」
言い終えてから、長いあいだ止まって、ようやく次の息を吸い込んだ。通信機は、それきり何も言わなかった。
船は爆発しなかったし、何かにぶつかりもしなかった。下へ退いていった。高度計の数字が一目盛りずつ戻っていった。九千、五千、千、三百、二十、十一。十一まで落ちて、止まり、北の砂浜の上空に浮かんだ。
ハッチは開いていた。戸口から縄ばしごが一本垂れ、その端は砂に落ちて、かすかに揺れていた。戸口の中の灯りは白く、戸枠の縁を一周照らし出していた。
アンドリューはシートベルトを外し、立ち上がって、戸口まで歩いた。風が下から吹き上げてきた。北風で、塩を含んでいた。彼は縄ばしごを踏んで下りていき、砂まであと人の背丈ひとつぶんのところで手を放して、飛び降りた。
着地したとき、左の膝が先に一度鳴った。くぐもった、古い音だった。彼は一度しゃがみ、鳴りやむのを待ってから、身を起こした。
背後で、ハッチが閉じた。縄ばしごが引き込まれるとき、ごく軽い音がひとつした。船は上昇し、海の方へ退いて、湾の外へ下がっていった。
砂は冷たかった。昼間より冷たかった。砂の面には小さなくぼみがたくさんあった。昼間、人が踏んでできたもので、夜になってもまだ波にならされていなかった。潮は満ちてきていて、濡れた砂の縁が一筋ずつ光り、彼の足もとまで光って止まった。靴が少し沈み、引き抜くと、砂が靴の縁から落ちた。彼はしっかり立ち、まず南を見た。
着ているのは暗い色の上着で、ファスナーは首の下まで上げてあった。裾が風に吹き上げられ、また脚のそばに落ちた。
旗の区域は南にあり、彼から三十歩あまり離れていた。白いポールが一本ずつ砂に立っていて、人の背丈ほどあった。ポールの先の旗の布は日に焼けて灰白になり、縁には細い赤が一筋残っているだけで、布地には小さな穴がたくさんあいていた。風があけたものだ。北風が吹いてきて、旗の布はポールに張りついて、動かなかった。白いロープがポールとポールのあいだに張られ、砂の面に押しつけられていた。それが線だった。ロープには一歩ごとに結び目があり、結び目には白い布切れが一つずつ巻いてあった。
彼は白いポールを一度数えた。十七本。ポールの根元はコンクリートに埋まっていて、コンクリートの縁には白いペンキが一周塗られていたが、ペンキもはがれ、灰色が覗いていた。どの一本も同じだった。
風はポールとポールのあいだを抜けていった。ポールごとに音が違った。太さもまちまちだった。
いちばん北のポールは線の尽きるところにあった。彼は歩いていき、その横で止まった。ポールとポールのあいだの白いロープは、どの区間も同じ長さだった。ポールの北側の砂には、何もなかった。
彼の立っている場所は、線の北側だった。足もとの砂は、旗の外側の砂だった。
北の端には旗がない。午後、路地の入り口で、あの男は言っていた。旗のあいだ、北には旗はない。
旗の区域の南の端、もとは車が停まっていた場所は空いていた。地面には二本のタイヤの跡があり、跡には砂が入り込んで、風で平らにならされていた。昼間、ライフセーバーのパトロール車が残したものだ。
砂の上には足跡が一列あった。エスプラネードの階段から下りてきて、ずっと北へ向かい、このポールのそばで一度止まって、回り込み、また北へ向かっていた。風が足跡の縁を半分ならしていた。さらに北の砂には、靴が二つ残っていた。一つは傾いて倒れ、一つは立っていて、履き口を海に向けていた。
彼はそちらへ行かなかった。
線の内側、線から遠くないところに、白く塗った椅子が一脚あった。椅子のペンキははがれていて、一か所また一か所と、下の灰色が覗いていた。肘掛けには浅い跡が二つあった。何年も手が置かれてきた場所だ。前脚のそばに貝殻が一つ押しつけられ、半分砂に埋まっていた。四本の脚は深く埋まっていて、何年も動かされていなかった。椅子の下の砂はほかより硬かった。椅子の横の竿には白い浮き輪が一つ掛かっていて、ロープが垂れ下がり、風のないときは揺れなかった。竿の横のあの白いポールは、先の旗の布がいちばん古く、いちばん白く焼けていて、布だとほとんど分からないほど白かった。
椅子には一人の男が座っていた。このあたりの人間は、彼を旗の番人と呼んでいた。
灰色のベスト。灰白の古い地色で、胸の文字は日に焼けて薄い灰色になり、輪郭がわずかに残っているだけだった。両手は膝の上に置かれ、顔は海に向いていた。膝には白い表紙の冊子が一冊押さえられていた。紙の縁は反り返っていて、きれいに揃って反っていた。冊子の角は一か所、白がすり減っていた。胸の前には白い紐が一本あり、その先に銀色の笛が一つ下がっていた。ベストの紐が一本ほどけて、腰のそばに垂れていた。風が吹いてくると、その一本が動いた。
アンドリューは線の外側に立ち、椅子から三、四歩のところで、長いあいだ見ていた。
三、四歩がどれだけの距離か、彼は知っていた。ニューヨークで、薬局の棚と棚のあいだも、この距離だった。
あのベストの胸は平らだった。風は一陣ずつ来た。一陣過ぎるたびに、裾は吹き上げられ、また落ちた。胸のところは、動かなかった。
笛の吹き口はきれいだった。夜の風は冷たいのに、吹き口には何もなかった。曇りもなく、水気もまったくなかった。
彼の右手の方、エスプラネードの向こうの端に塔があり、その身はとても高かった。ガラスは鉛色で、白い窓の帯が一本ずつ上へ並び、とても高いところまで並んで、そこから先は見えなかった。七十七階に灯りが一周ともっていて、白かった。街灯が一つ、また一つ、間を大きくあけて立っていて、塔の根元までは照らしていなかった。この時刻、大通りには人がいなかった。街灯の下にも、誰も立っていなかった。
さらに上では、白いポールが塔の頂の縁から突き出し、空へ向かってすぼまり、編まれて一つの口になっていた。それが冠のケージだった。冠のケージの真ん中には針が一本立っていた。つまりマストで、針の先に赤が一粒あった。冠のケージのポールには旗の布はなく、ポールだけだった。並び方は砂の上と同じだった。彼はいちばん北の一本から上へ数えていき、十七本目まで数えて、砂の上と合った。
冠のケージの中には、とても大きな、動かないものが一つあった。針の下に。
彼はその形を見ようとしなかった。それがそこにあることは知っていた。頭上の唸りはずっと続いていた。低く、肩にのしかかっていた。重くはなく、変わったことはなかった。
南南東の空に、あの円が掛かっていた。
それは満月より二十倍あまり幅があった。円の縁は淡い紫だった。明るい側が暗い側より少し広く、明るい側には白い雲があって、一塊ずつ円の縁にのしかかり、動かなかった。円の少し上、真南寄りに、黒い口が一つ開いていた。口の縁には細い白い輪が一本あった。輪の外の星は、みなねじ曲げられていた。
アンドリューは喉が少し乾いていた。一度つばを飲み込み、喉仏が一度動いた。
水の中、三つ目の岩の外側で、白い板が一枚、浮き沈みしていた。海は墨のように黒く、岩は水の中で黒かった。白いのは波頭だけで、一列ずつ寄せてきていた。
岩の北側に、暗い色の水路が一本、岸から沖へ伸びていた。水路の水は両側より平らで、白波がなく、平らに押しのばした布のように、ゆっくりと沖へ引いていた。水路の両側では、波が一列ずつ岩に砕け、明るく砕けていた。水路の中では、そうならなかった。白い板はちょうど水路の上にあり、少しずつ沖へ運ばれていた。
岩の縁には黒い貝が一面ついていた。何度も波に打たれ、殻の縁は磨かれて光っていた。
板の上には黒い影が一つ腹ばいになっていた。黒い水着だった。両脚を水の中に伸ばし、あまり蹴っていなかった。両手は板の縁をつかんでいた。それがカイだった。砂の上で、その名前が呼ばれていた。二度呼ばれた。呼んだのは彼の友達で、波打ち際に立ち、手に水のボトルを一本掲げていた。キャップは開いていて、水が口から流れ落ち、手の甲まで流れたが、彼は振り払わなかった。
カイの脚が一度蹴り、止まり、また一度蹴った。水路の力は脚の力より大きかった。板はやはり沖へ進んでいった。カイは顔をこちらへ向け、岸の方を見た。見ていたのは、波打ち際で彼の名前を呼んでいる者だった。
板は岩を越え、岩の根元から三十歩離れた。カイはまたうつむき、両手で板の縁をきつくつかんだ。
もう一人の頭が波の中にあり、上がっては沈んでいた。その頭は板よりも遠かった。波が一列来ると、頭は持ち上げられ、波が過ぎると、頭はまた沈んだ。水をかく手はとても遅く、一かきごとに同じ場所まで伸び、引き戻され、また伸ばされた。あの頭は波を数えていた。アンドリューも波を数えていた。二人が数えているのは、同じ水だった。
波が一列のしかかってきて、あの頭を覆った。波の背に手が一本覗き、また沈んだ。アンドリューが四まで数えたとき、ようやくあの頭が波の裏側から浮かび出た。
アンドリューはあの頭を知っていた。水の中には、カイのほかには、この一人しかいなかった。彼は午後、裏口の路地の入り口でのことを思い出した。あの男の左の胸ポケットには名札が一枚留めてあり、DANと印刷されていた。左の前腕の内側には小さな赤いところがあり、透明な水ぶくれが一つ盛り上がっていた。あの男は、自分はディーンだと言った。アンドリューはそのとき、名札のことを訊かなかった。
椅子の上の男が口を開いた。
一つ目の言葉は、岸の上にあった。声ははっきりしていて、砂浜で人を呼ぶようだった。顔は海に向いているのに、声はこちらへ来た。唇が一度動き、彼は立ち上がらなかった。その一言が出てきた。「旗の内側でのみ、水に入ってよい。」
声は砂の上に落ちた。堤はそれを返してこなかった。砂も返さなかった。
アンドリューは動かなかった。左の前腕の上の方で、とても細い暖色の線が腕を巻き、ゆっくりと回っていた。彼は線の外に立ち、待った。
アンドリューは話す前に、いつも一度息を吸う。長く吸う。吸うとき、胸が持ち上がり、いちばん高くまで上がってから、ようやく下りる。この癖は点呼のときに身についたものだ。あの頃は毎朝点呼があり、呼ばれた者は返事をしなければならず、数えたものは名簿と合わなければならず、合わなければ数え直した。彼は人を数え、足も数えた。いま彼が数えているのは白いポールで、波でもあった。彼は一度も、最初の一字より先に口を開いたことがなかった。
二つ目の言葉は、波の中にあった。
波を一列隔てて、声がこちらに届いたとき、字はまだ残っていたが、一枚かぶさってぼやけていた。濡れた布を一枚隔てたようだった。一つ目より一段薄かった。その言葉はこうだった。「旗の外の者は、海が預かる。」
その一言は、水の中に向けて言われたものだった。水の中の者に聞こえたかどうかは、ここからは分からなかった。
旗の規則は彼には及ばなかった。彼は線の外に立っていて、もともと旗の内にはいなかった。彼は線を越えない。彼が使うのは数だった。
波が一列入ってきて、岩にぶつかり、砕け、退いていった。二列目が入ってきた。三列目がいちばん大きく、ずっと白く、岩にぶつかったときの音がいちばんくぐもっていた。板の上の黒い影は動かなかった。水の中のあの頭は上がっては沈み、沈んでいるあいだのほうが、浮かんでいるあいだより長かった。
砂の上の友達がまた一声呼んだ。彼はボトルを砂に置いた。ボトルは倒れ、水が砂に流れ込んだ。彼は両手を口の前に寄せた。声は岩にぶつかって跳ね返り、粉々に跳ね返った。それは人の声で、砕けても、どの二音なのかはまだ聞き取れた。
砂の上の友達はアンドリューに気づき、彼に向かって一度手を振り、また下ろした。アンドリューは応えず、そちらへ行きもしなかった。
彼は数えた。
彼は一度、口に出した。「二人。北、旗の外。」彼はその二つの数を白いポールと突き合わせた。線の尽きるところが最後のポールで、北にはポールがない。水の中の二人は、どちらもポールの北にいる。合った。
彼は海の方へ半歩ずれ、また止まった。潮が満ちてきたところには、砂の面に薄い水が一層残っていて、水の下の砂粒がはっきり見えた。彼は右手を上着のポケットに差し入れた。ポケットは空で、指先が布の裏地に触れ、また引き抜いた。
砂の上の友達は、倒れたボトルを起こした。キャップは二度ひねって、ようやく閉まった。二度目、半分までひねったところで、彼の手は止まった。彼はボトルを砂の上に戻し、両手をまた口の前に寄せ、そこで止まって、声は出なかった。
白い板は水路の中で半回転し、板の先が一度岩の方を向き、また運ばれて向きを戻した。水路の白い泡が途切れ、またつながった。つながった一続きは、もとより一区切り短くなっていた。
波が岩に砕け、水が一層盛り上がり、ある高さまで這い上がって、また退いた。とてもゆっくり退いた。
線の上、一歩ごとの結び目はどれも固く結ばれていて、結び目の白い布切れはなびかなかった。
アンドリューの左手は体の脇に垂れ、指が太腿の外側のズボンの縫い目に触れていた。風が横から吹きつけて、目が乾いた。彼はこすらず、二度まばたきしただけだった。
彼は通信機に一度目をやった。表示の時刻は零時四分だった。
彼はしばらく立っていた。前へも出ず、後ろへも下がらなかった。足もとの砂はぴくりとも動かず、水だけがゆっくりと満ちてきていた。
三つ目の言葉は、沈んでいった。
旗の番人の唇は動いていた。線の外から見ると、開いては閉じ、閉じては開くのが分かるだけだった。声はなかった。波の音はまだあり、風の音もあったが、その一言はこちらへ来なかった。
彼の胸は上下しなかった。
アンドリューは三まで数えた。一つ目の言葉を彼は数えた。二つ目の言葉も数えた。三つ目には声がなく、彼は唇を数えるしかなかった。唇が三度目に動いて、止まった。その瞬間から、この一言は空気の中にはなくなった。彼はその一言の空白の中で口を開いた。まず息を一度吸い、いっぱいまで吸って、胸が持ち上がってから、ようやく最初の一語を出した。最初の一語は、俺、だった。彼の声は高くなかった。彼は一度も声を張り上げたことがなかった。
「三つ数える。あんたの三つ目の言葉で、俺が入る。」
言葉は砂の上に落ちた。とても軽く落ちた。砂は声を呑み込んだ。とても速く呑み込んだ。
椅子の上の男は振り返らず、彼を見もしなかった。膝の上の冊子が一度動いた。左手が冊子を開いた。紙の縁は反っていて、その手がページを平らに押さえ、それから冊子を少し持ち上げ、向きを変えて、線の外へ向けた。紙がめくれるとき、砂の上で、ごく軽い音がわずかに聞こえた。
顔は上げなかった。
ページは線の外を向いていた。アンドリューにはそこに書かれた字がはっきり見えた。
どのページの枠も同じだった。枠の中に名前が一つ、名前の後ろに時刻が一列、時刻の後ろにチェックが一つ。墨のチェックもあれば、薄れて灰色になったチェックもあった。このページの名前の欄には、ダンという名前が一つあった。筆跡は薄く、最後の一画はほとんどなかった。
彼はその字を一度見た。心の中で、声には出さずに。それから彼はうつむき、自分の胸もとに目をやった。認識票は銀灰色で、鎖骨に貼りつき、何の字も刻まれていなかった。この札を彼はずっと身につけていて、それはずっと空白のままだった。
午後のあの男のポケットの名札には、DANと印刷されていた。あの男が名乗ったのは、ディーンだった。
アンドリューは振り向き、水の方へ向いた。大きな声ではなく、短い言葉で呼んだ。
「ディーン。ダンじゃない。」
水の中の頭が一度止まった。波が一列過ぎ、頭が持ち上げられた。波が落ちるとき、頭は岸の方へ半分向き、また戻った。遠すぎて、顔は見えなかった。
岸の上の声がまた来た。はっきりと、一つ目の言葉と同じくらいはっきりと。今度は、あの一言ではなかった。
「旗の外の者は、名簿に記さない。」
旗の番人はページをめくった。一枚、二枚。紙の縁は反っていて、一枚めくるたびに、ごく軽い音がわずかにした。後ろの方までめくって、ある一行で止まった。ページはやはり線の外を向いていた。
その一行には番号だけがあって、名前はなかった。字はとても小さく、どの字も同じ大きさで、墨で書かれていた。ダンの名前より濃く、線で消されてはいなかった。
「LM-1-09、未計上。」
アンドリューはその一行を読み終えてから、ようやく目を上げた。
午後のあの男の腕には、あの水ぶくれがまだあった。彼はそのことを思い出したが、思い出したのは一瞬だけだった。
彼はもう一度呼んだ。声はやはり大きくなかった。
「ディーン。」
冊子は、いつのまにかダンのページに戻っていた。ダンの横に、四文字増えていた。
鉛筆で書かれていた。筆画ははっきりしていて、新しく、一画ずつ現れてきた。ディの濁点はとても速く打たれ、末尾のンは最後に払われた。冊子の綴じ目にペンは挟まっていなかった。旗の番人の手も動いていなかった。その手はまだページの角を押さえていて、平らに押さえていた。
二文字。二人。彼は一度数え、もう数えなかった。
午後、彼はこの名前を一度聞いていた。路地の入り口で。いまそれは名簿帳に書かれていた。
呼ぶ者は岸にいて、呼ばれる者は水の中にいて、そのあいだを一列また一列の波が隔てていた。
ダンの名前は動かなかった。
アンドリューは半拍遅れて、ようやく口を開いた。
「記したな。なら、あいつは名簿に載っている。」
波の中のあの言葉がまた来た。さっきより一段薄かった。
「記された者は、旗の内側の者だ。旗の内側の者のもとへは、ライフガードが行かねばならない。」
彼は一度止まった。唇はまだ動いていたが、声はなかった。
アンドリューは唇の動きから、最後の一言を読み取った。ライフガードは旗の外に出てはならない。
二つの条は名簿帳に隣り合って書かれていて、あいだに一行の空白があった。アンドリューの左の膝が一度こわばった。彼はそれが落ち着くのを待った。その一言の空白まで待ってから、ようやく口を開いた。
「二つとも、あんたの名簿帳に載っている。」
旗の番人は彼を見なかった。冊子を見ていた。長いあいだ見ていた。風が線の上を吹き抜け、白いロープを動かした。ロープの端が砂の上にごく浅い筋を一本引いた。風がやんでも、筋は残っていた。
声がまたはっきりしてきた。岸の上の一つ目の言葉と同じくらいはっきりと。
「二つとも、私が書いた。」
風がまた一度、北から来た。白いロープが一度動いたが、今度は砂に筋を引かなかった。アンドリューは受け答えしなかった。彼はその一言を砂の上に落ちるに任せ、落ちきるのを待ってから、ようやく動いた。右手を胸の前に当て、認識票の上に押しつけた。認識票は冷たかった。彼の手より冷たかった。
椅子の上の男は冊子を閉じ、膝の上に戻し、掌を表紙に当てて、一度押さえた。冊子の表紙の角には亀裂が一本あり、裂け目は灰色だった。
通信機の中に声はなかった。
アンドリューは左手を上げ、手首の通信機に一度触れた。彼はそれに向かって話した。声は高くなく、一言言い終えると、しばらく止まった。通信機の灯りはつかなかった。彼もそれを見なかった。
「海の向こうも灯った。誰かが迎えに行かなくては。」
彼は半拍止まった。
「俺が行く。」
通信機の中に答えはなかった。あの平らな声は、どんな番号も読み上げなかった。彼は待たなかった。
頭上の唸りが少し低くなり、また元の高さに戻った。
東の海は黒かった。明るい場所はここにはなく、ここからは見えなかった。彼は探さなかった。塔の頂の針に一度目をやり、南南東の円にもう一度目をやった。円の縁は動かなかった。通信機の時刻は零時六分に跳んだ。一つの数字が、一目盛りずつ進んでいった。
彼は北へ歩いた。
三つ目の岩の下に、白く塗った鉄の箱がまだあった。ペンキは半分はがれ、下から鉄の色が覗いていた。蓋は斜めに載っているだけで、留められていなかった。彼は蓋を開けた。中には白いロープが一巻きあり、端はゴムバンド一本で束ねてあった。ロープの畳み方は古いやり方で、一巻きに一巻きを重ね、きちんと畳まれていた。白い浮き輪が一つ、ロープの上に載っていた。箱の中にほかのものはなかった。
彼は浮き輪を取り出し、砂の上に置いた。ロープは重く、掌に食い込んだ。ロープには腕一本ぶんごとに結び目が一つ作ってあり、彼は三つ数えた。ゴムバンドを外して左の手首にはめ、二重に巻いた。箱のペンキの縁はとても鋭く、指先が触れて、一瞬止まったが、切れはしなかった。
掌のあのねじが一度食い込み、また食い込まなくなった。
彼は計算した。鉄の箱から線の尽きるところまで、百歩あまり歩かなければならない。線の尽きるところから椅子の前まで、さらに十何歩歩かなければならない。ロープが足りるかどうか、彼には計算できなかった。この一巻きのロープが全部でどれだけの長さなのか、測った者はいなかった。
彼の足跡が一つずつ後ろに残り、線の尽きるところまで続いていった。
岩の根元では砂が濡れていて、踏むとくぼみができ、くぼみにはすぐに水が染み込んだ。潮はまた少し満ち、彼の靴の縁まで来た。彼の左の膝はこの区間を歩きとおして、鳴らなかった。
彼は浮き輪を箱に戻した。ロープを抱えて引き返した。百三歩、百四歩。水の中の頭はまだ波の中にあり、上がっては沈んでいた。彼は一度数えた。二人。カイの板は岩の根元からまた少し遠くなっていた。
彼は線の外側に沿って歩き、椅子の前まで来た。椅子の前脚は、線からわずか一歩しか離れていなかった。彼はしゃがみ、ロープの一端を線の上に押しつけた。白いロープが白いロープに重なり、どちらが旗の線で、どちらが彼の持ってきたものか、見分けがつかなかった。彼はそれを平らに押さえ、砂に少し押し込んだ。ロープは砂の上にとても長い弧を引きずって、彼の手から線の上までずっと続いていた。もう一端はまだ彼の手の中にあり、端は彼に握られて湿っていた。
彼は立ち上がり、後ろへ下がった。左の前腕の上の方の環が二周目まで回り、あの線が腕の外側で一度光って、また暗くなった。彼は三歩下がり、止まった。振り返っていちばん北のポールに一度目をやった。ポールの先の旗の布はぴくりとも動かなかった。
膝の上の冊子はまだ閉じられたまま、表紙を線の外に向けていた。
通信機の時刻は零時八分に跳んだ。
旗の番人の右手が膝から上がり、親指が胸の前の笛の胴を押さえた。
それは線の内側から伸びてきて、椅子の縁を越え、線を越えた。伸びてくるとき、風は起こらなかった。旗の布は動かず、線も動かなかった。手首はまっすぐで、指は開いていた。親指はまだ笛の胴を押さえていた。押さえたまま、緩めなかった。線の外から見ると、そこはほかより少し明るかった。笛の吹き口は、やはりきれいだった。銀の笛は白い紐の先に下がり、手に押さえられて、鳴らなかった。
手はロープの上で止まった。
指は一本ずつ、同じだけ開いていた。
アンドリューの掌は濡れていた。彼は拭わず、ロープのもう一端を握りしめた。あのねじが食い込むところまで握った。
旗の番人の唇はまだ動いていた。三つ目の言葉は水の底にあり、まだ過ぎ去っていなかった。